2019年10月26日 すまいスクール「知ってますか?お隣との土地境界線」
テーマ:知ってますか?お隣との土地境界線
講 師:平塚 泉 氏(京都土地家屋調査士会)
会 場:アーバネックス御池ビル東館2階
参加者:70名
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広義の境界と狭義の境界
広い意味での境界としては、海岸線、稜線、谷線、河川線などの自然境界があります。
その次が、領地線、地番創設線、区画線、管理線など人為的境界です。
最も狭義の境界は、一方は平成17年に改正された不動産登記法を根拠とする筆界です。始めに筆界が定められたのは、明治時代の地租改正のときです。筆界は公的な境界であるため移動することのない静的な存在で、法務局が管理しています。
他方,民法を根拠とするのが私法上の境界=所有権界です。所有権界は私的なものであるため移動することのある動的な存在です。
境界にはそのほかにも、各種法令などを根拠とする公物管理境界や建築基準法上の敷地境界線、みなし道路線、水路等管理区域線、行政界などがあります。
筆界とは
不動産登記法で定義された「地番」と「地番」の境界を筆界といいます。
「Aさんの土地」と「B さんの土地」の境界ではなく、あくまで「地番」と「地番」の境界です。明治6年からの地租改正事業によって地番確定線=原始筆界が決められ、所謂公図が作られました。
現在の地番で〇〇番-〇〇と枝番がついていたら、枝番の前の〇〇番が原始筆界による地番です。
地租改正事業以降に土地改良や区画整理でできた境界線は、再構築された後発筆界、分筆登記された場合も後発的な分筆筆界線ができます。現在でも、法務局に行くと、閲覧、証明書交付される地図の多くが、原始筆界による旧公図の写しが元の不動産登記の法14条4項地図として利用されています。
筆界は地租改正後の長い間、公的に全国一斉に測量されることがなく、公図と現況が変わっているところが多くなってきました。
そこで、平成 15 年に問題となった六本木ヒルズの土地問題を機に不動産登記法が改訂され、国土交通省による地籍調査事業、法務省による地図作成事業が、主に都市部の人口密集地から積極的に進められる様になりました。
その成果の不動産登記法 14 条 1 項地図の境界線は現地復元性があり、標識がなくなったりしても機械で測定すれば、すぐに再現できます。
よって、法務局に添えられている公図が法 14 条 1 項地図であれば、筆界は確認できて安心といえます。
筆界と所有権界の違いはなぜ起こる
左図を例にとると、 100 番の土地と 101 番の土地の境界(黒い線)が公図にある筆界です。
ここで、図のように山田さんが離れを建てるために、筆界をこえて田中さん側の土地を借り、等価交換的な意味で斜めに所有権界(青い線)を引く、ということは普通に行われてきました。
これは,当事者が変わらない限りは、お互いにその所有権界に納得しているので問題ありません。
しかし、あくまでも所有権界なので、所有者が変わってしまうと、双方の認識に違いが生じることがあります。
この所有権界を筆界として確定するには A と B の部分をいったん分筆したのち、合筆するのが正しく完璧な処理の仕方ですが、ほとんどそのようなことは行われていませんでした。そのため、境界をめぐって紛争が起こる原因にもなりました。
地籍調査事業と地図作成事業
現在、筆界を特定するために、国土交通省による地籍調査事業、法務省の地図作成事業が日本全国で行われています。
これらの事業で筆界を定める際には、住民の立ち合いが必要です。
立ち合いを要請する文書が送られて来たり、説明会が開かれたりするときは、必ず話を聞きましょう。
土地を売買する場合などに、個人で筆界を特定しようとした場合、30 坪程度の土地でも 50~100 万円程度はかかりますが、国が事業として行う場合は、所有者に費用負担はありません。
京都府は事業実施率が8%と全国ワースト1(平成30年度)なので、これから2大事業を実施するところが多いので、積極的に協力してください。
(例)地籍調査事業は下記のような手順で行われます。
① 事業の計画準備…調査を行うことを地域の住民に説明
② 一筆地調査…土地所有者の立ち合いによって境界を確認する
③ 地籍測量…確認した境界を測量する
④ 地籍測定・地籍図等作成…筆界点をもとに正確な地図を作り,面積を測定する
⑤ 閲覧…地籍調査の結果(地籍図・地籍簿)を閲覧にかけ,確認する
⑥ 登記所への送付…地籍調査の結果が登記所の備え付け地図となる
境界線をめぐる紛争
そもそも、もめごとが起こるのは認識の違い=思い込みがあるから。
境界線の場合は筆界と所有権界を混同して認識されることが多いようです。
認識の違いが意見の相違につながり、さらに感情のコントロールが効かなくなると紛争が起こります。
図の例では 、A さんと B さんの間で境界の認識に違いがあります。
A さんブロック塀の B さん側が境界線と主張。
B さんは親から A さんの建物の軒までの土地を貸していると聞いていたため、A さんの建物の軒までが所有地と主張。
A さんはそんなことは聞いていないし、これまで使用していた経緯から時効取得してブロック塀までが所有土地であると考えています。
このように所有権界の争いが起こります。
筆界が定義された平成17年不動産登記法改正以前に、このようなケースを裁判で争うと、筆界でも所有権界でも争っている併合状態が多く、判決文により、A さんと B さんの境界を確定するものであれば所有権確認になり、100 番と101 番の境界を確定するものであれば筆界を確定したことで判断していました。
現在は、筆界についてある程度認知されてきたので、筆界特定制度も筆界確定訴訟の場合でも、筆界について資料が十分にあって、筆界が特定又は確定できれば、その筆界は A さん B さんの主張とまったく違う線で判断される場合も理解される様になってきました。(その理由は筆界は既に決まっているもので、裁判の場合 A さん B さんが争う理由はない=非訟事件の分類になります。)
しかし、所有権確認訴訟の場合、裁判所は A さん B さんそれぞれが主張する境界について検討し、所有権界を決めなければなりません。
その際に、所有権界が筆界と違う線に決まったら、筆界と一致させる手続きが場合によっては必要になります。それは分筆登記や所有権移転登記の手続きです。
紛争解決制度の違い
① 筆界特定制度=法務局=筆界を特定=不服があれば確定訴訟へ
② 筆界確定訴訟=裁判所=筆界を確定…終局的であり不可逆
③ 所有権確定訴訟=裁判所=所有権界を確認
④ 民事調停=裁判所=所有権界について話し合いで決める
⑤ 裁判外紛争解決手続制度(略語 ADR)の例)京都境界問題解決支援センター=京都土地家屋調査士会=筆界・所有権界についてもまとめて調査して、話し合いで解決する。裁判及び登記手続き等にも有効な調停合意書を作成。時効中断などの法的認証もある。
境界紛争のもとになっている境界が筆界なのか所有権界なのか、その両方なのかなどによって、利用すべき制度は違いますので、まずは土地家屋調査士に相談されてはいかがでしょう。
対象イベント | すまいスクール 知ってますか?お隣との土地境界線 |
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登録者 | 京安心すまいセンター |
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最終更新日 | 2022-08-12 16:00:11 |