2016年12月3日 ホームインスペクションのすすめ ~簡単にできる自宅のチェックとメンテナンス~

■第1部 ホームインスペクションについてのレクチャー(講師:松田貞次氏)
本日の主題である「ホームインスペクション」とはそもそも何なのかということや,生まれた経緯,診断方法や診断範囲,行うことに関するメリットなどの総括的な内容について,松田氏から説明があった。
●ホームインスペクション(住宅診断)とは?
住宅に精通したホームインスペクター(住宅診断士)が,第三者的かつ専門的な見地から,①住宅の劣化状態②欠陥の有無③改修すべき個所やその時期,費用など,その家の個別の現状を見極め,今後の管理についてアドバイスを行う専門業務である。
●どんなタイミングで行うのか? メリットは?
インスペクションは家の売買の際や自宅のチェックの際に行う。購入者の立場としては,専門家がチェックを行うことで,居住後のリスクが軽減でき,売却者や仲介業者の立場としては,自分の家の状態や価値を把握することで,売買後のトラブルを未然に防ぐことができる。自宅チェックの場合は,現在の状態を把握することで、今後のメンテナンスの時期や費用を把握でき,財産価値を保持することができる。
●費用と範囲
インスペクションにかかる費用は,100㎡の家で約2~3時間程度,費用は5~10万円程度が目安。
診断範囲として共通的検査対象と考えられている項目は,大まかに挙げると次の通りである。
①構造耐力上,ここにトラブルがあった場合,安全性に問題がある可能性が高い箇所
…小屋組,柱,梁,床,基礎部分など家の骨格の部分
②雨漏りや水漏れが発生している,又は発生する可能性が高い箇所
…外壁:屋根や外壁など
内壁:小屋組み,天井,内壁など
③設備配管に日常生活上,使用のある劣化などが生じている箇所
…給排水:給水管,給湯管,排水管
換 気:換気ダクト
その他,住宅に関して総合的に診断するため項目は多岐に亘り,広範囲となる。
●今後注目されるインスペクション
ホームインスペクションは,今後日本国内でも浸透していくと思われる。
というのも,政府は現在,住宅に関する考え方の指針を,新しい住宅をどんどん作るよりも,良い中古住宅を長く利用するという方向に転換している。
宅建業法の一部の改正も既に可決されており,今後はホームインスペクションを行うこと,行われていれば重要事項説明の際に説明が義務付けられる方向になるのではないかと思われる。住宅の資産価値は放置すると下がっていく。定期的なメンテナンスを行い,ふさわしい管理と維持行為を行えば資産価値を向上することも可能であり,その指針となるのが,ホームインスペクションである。

■第2部 自分で行うホームインスペクションについてのレクチャー(講師:坂本雅之氏)
プロに頼まないとホームインスペクションは全く不可能ということではなく,住宅のチェックポイントに関する知識がある程度あれば,家主でも十分可能であり,第2部では,坂本氏から,診断に関するチェックポイントについて説明があった。
●住宅外部のチェックポイント
住宅外部のチェックは,マイナスドライバーや,ひび割れの幅を測定するクラックスケール,タイルや外装材の浮きなどを調べる打診棒,明暗差のある場所をチェックしやすいハンドライト,双眼鏡などを用いて以下のチェック項目を点検する。
① 水道メーターで漏水点検
② 外壁や土台のひび割れや欠損
③ 屋根の塗装の劣化や瓦葺の脱落,雨の日の樋からの漏水など
④ 排水桝の劣化
●住宅内部のチェックポイント
家の中のチェックは,水平器,点検鏡(手鏡での代用も可能)などを用いて以下の項目を点検する。
① 天井・壁・押入れの染み・カビ
② 建物の傾斜が原因と思われる部材のズレ
③ 床のへこみやきしみ,傾斜
④ キッチンのシンク下の漏水
⑤ 洗面台の配管接続部の漏水
⑥ 浴室の壁・床・タイルのひび割れ
⑦ 換気扇の風量や結露水による漏水
⑧ 住宅用火災警報器の設置状況
日々経年劣化していく住宅の資産価値の維持において,建物のコンディションを把握することが最も重要なことである。

■第3部 自分でできる簡単メンテナンス(講師:宮島 隆章氏)
ホームインスペクションをしていく中で,軽微な不具合を発見した場合,修繕方法を知っていれば,ある程度の部分は自身で管理を行うこともできる。
代表的な建具など数か所の修繕の仕方について,宮島氏から説明があった。
●コーキングについて
建物や室内において,防水などを目的として,壁と設備の隙間を目地などでふさぐ(充填する)ことを指す。
またその材料であるパテをコーキング剤,充填剤などと呼び,防水性の高いもの,防カビ成分の入ったものなど数多くの種類が存在するため,
行う場所や用途によって選ぶとよい。
●建具の調整
<木製ドア>
最近の製品であれば,蝶番の部分にメーカー名や品番,品名が入ったシールが貼ってあることが多い。それが発見できればメーカーのホームページで調整の仕方を調べることが一番手っ取り早いが,歪みや擦れなどに対する基本的な調整方法としては,蝶番の中にある固定ビスを緩め,調整ビスを締め直すことで高さや歪みを調整し,また固定ビスを締めて固定する。
<木製引き戸>
引き戸の上部,あるいは下部に,引き戸そのものの立て付けのせいで隙間が空いてきたという場合は,ドアの下部にある戸車の調整ねじを緩めて戸車の高さを調整する。
上部が当たるようなら少し削ったり,下部が当たるようなら戸車の隙間に厚紙を噛ませたりする。
<アルミサッシ・網戸>
窓を閉めてもクレセント鍵のかかりが悪かったり,サッシと窓・網戸の隙間が空いたりしている場合は,歪みを原因としていることが多い。
これもホームページに掲載されている場合が多いが,基本的には固定されていた調整ねじを緩め,上下に調整してまた締め直し,よいところに固定する方法が一般的である。
<水栓>
水道の蛇口から水漏れが起こっている場合,どの部分から漏れているかを見る必要がある。
蛇口下のナットから水が漏れている場合は,蛇口を外し,ナットを外して,その内部にあるパッキンを新しく取り替えて,逆の手順で蛇口を再度はめ込む。
蛇口を捻って水を止めていても,吐水口から水漏れがしている場合は,ケレップ(コマ)のゴムパッキンの劣化が原因であることが多い。
蛇口を外し,ケレップをピンセットなどでつまみ出してゴムを交換すればよい。ただ,あまり強く閉めすぎると,他の部分に負荷がかかって水漏れは止まらなくなる。
様子を見ながら行ってほしい。
<クロス>
クロスの軽微なはがれなどがあれば,活躍するのは先ほども述べたコーキング剤である。他,あれば便利なのはジョイントローラーである。
剥がれた部分の下地をカッターで切り取って平らにし,コーキング剤を溢れてもよいので多めに注入する。ジョイントローラーを転がして均し,はみ出たコーキング剤を湿らせたスポンジなどで拭き取って乾かせば綺麗に仕上げることができる。
毎日家を見ている家主自身が点検することが,自宅をベストコンディションに保つために最も簡単な方法である。異変の発見が早ければ,
早めに専門家に相談することもできる。「早期発見・早期治療」が望ましいのは人間も住宅も同じである。是非,住宅の寿命を延ばし,
資産価値の維持・向上を心がけていただきたい。

■質疑応答
Q1.
古い浴室のタイルを取り替えるついでに全体のリフォームについても相談したら,工務店から浴槽のサイズが規格外なので,
すべて壊して設備を全て入れ替えた方がよいとアドバイスされたが,どう考えるのがよいか。
A1.
築年数や家の構造,素材にもよるが,かなり費用が掛かると思うので、慎重に判断された方がよい。
意味合いとしては,すべて壊さないとおそらく構造的には浴室が取り出せず,そうであれば一旦すべて壊すのと同じと考えられた方が
よいのではないかという意味だったのではないかと思うが,それぞれの製品のサイズはメーカーによってさまざまである。
他のメーカーの製品も検討してみてはどうか。

Q2.
宅建業法の改正により,ホームインスペクションを第三者が行うとのことだが,例えば不動産売買の際に,仲介会社が「自分達で行っている」と言った場合,それは正しい結果と言えるのか。
A2.
現在可決された範囲としては,「ホームインスペクションが必要になる」ということであり,誰が第三者として行うべきなのか,またホームインスペクターの正確な資格の内容など,議論が続いている最中である。
今の不動産業者側から見た流れとしては,ホームインスペクションを行っているかどうかを重要事項説明にて告知すること,また行っていなければホームインスペクターを紹介するなどが挙げられているが,協会としてはやはり不動産のプロが診断するのではなく,建築のプロが診断を行うべきであり,また紹介制では第三者的な視点も保持出来ないため一般消費者自身が誰に依頼するかを選択できるようにすべきと考える。

Q3.
ホームインスペクションは,二戸一の住宅などの場合,隣家の人に了解を得る必要はあるか。京町家には対応しているのか。
A3.
現状把握を目的としているので,マンションでも京町家のような古い住宅でも,診断を行うのは可能である。
古民家を専門とするホームインスペクターなど,得意分野もさまざまであるため,得意なことを尋ねてみるなどして頂ければよい。
ただし古い住宅の場合は,現状把握をしても安全性に問題があるという結果は変わらないと思われるので,耐震診断を受けた方がよいかもしれない。
隣家の人に必ずしも了解を得なくてはならないということもなく,家に入らせてもらって見せてもらえさえすれば,見える範囲で推測することは可能である。

対象イベントすまいスクール ホームインスペクションのすすめ ~簡単にできる自宅のチェックとメンテナンス~
イベント終了報告日2016-12-03
イベントレポート※本文欄に記載
登録者京安心すまいセンター
最終更新日2016-09-15 9:29:28
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